月夜見 “真夏の真ん中”
         〜大川の向こう

 


今年もまた、
結果としては GWが明けてからも長袖の上着が活躍した、
何だか妙な初夏だったのが嘘のように。
七月に入った途端、
真夏日通り越して“猛暑日”が襲い来た日本の夏であり。
冷夏になったらいいのにと思いつつ、
それだと流通がうまく回らないそうだし…なぞと、
すぐ前のお話の後書きで案じていたのはまるきりの杞憂。
昨年ほどじゃあないにせよ、
やっぱり節電の夏だから、
ひんやりクールジェルパッドとかいう寝具も、
赤ちゃんにも安全という“ゆらぎ微風”が出せる
高機能扇風機も順調な売れ行きだそうだし。
熱中症で倒れる人、搬送される人の数も
あっと言う間に やはり猛暑だった昨年を越えた。
ますますのこと日本も亜熱帯化かねぇなんて、
冗談じゃなくの本気で案じなきゃあならないものか。
されど冬場の豪雪の方も、このところは毎年のこととなっており。

 「まあ、今のこの暑い中で冬の話をされてもピンと来ないけど。」
 「だよねぇ。」

  ……失礼しました。

 「それよか、今年も半端じゃない雨が降ってるのが怖いわよねぇ。」
 「それよそれ。
  ここなんて、あんな豪雨が来たらあっと言う間に孤立でしょう?」

何と言っても大きな川の真ん中にある中州の里だ。
まま、何かあっても、
自家発電の施設とか上水蒸留の装置とかは、
大昔に使ってたのを引っ張り出せば何日かはしのげるし。
ここも川向こうの大町にコンビニやスーパーが出来たあおりで、
雑貨屋や酒屋といった小売りの店は無いに等しく、
物資の寸断という恐れもないじゃないが、
住人の感覚がまだまだ昔風なせいか、
各家庭に買い溜めという備蓄がたんとあるので、
半月くらいなら艀(はしけ)が出せなくとも不自由はしない。

 「今時の若い主婦はサ、収納がないからってのもあるけれど、
  醤油でもテンプラ油でも、予備に1本あれば十分、
  砂糖や塩や味噌まで買い置いてあると、
  用心深いのねぇなんて言われるんだって。」

 「新鮮な魚を刺し身にさばいてもらったけど、
  しまったワサビがない…なんて突発的なことになっても、
  コンビニに行けば買えるじゃないって感覚ですものね。」

そうかと思えば、主にお年寄りに“買い物難民”という層が出来ていて。
近所の馴染みだった商店街が軒並み閉店し、
その原因となったスーパーもまた、郊外店に負けて閉店と来て。
車が出せる若いファミリーには問題ないかも知れないが、
お年寄りには遥かな道程、なので。
毎日なんてとても無理だし、重いものも買えないしで、
ちゃんと料理もやり繰りも出来るにもかかわらず、
仕方なくカップめんや缶詰で過ごすお年寄りも、少なからずいるんだぞ。
ちっとは先のことまで考えろ、
市民の生活もろくに知らんくせに、あれこれ景気よく規制廃止した行政側。

 …って、話がだいぶ逸れましたが。

 「で、お宅は何組帰るって?」
 「いつもと一緒よぉ。
  カズちゃんトコの夫婦と子供らと、サチヨさんトコと。
  そうそう、下のマキさんトコは赤ちゃん連れてくるってvv」
 「あ、そういや去年の秋に生まれたって言ってたねぇ。」
 「お義父さんもお義母さんも今か今かって楽しみにしてるわ。」
 「可愛い盛りだろしねぇ。」
 「そっちはどうなの。」
 「ウチも一緒。ヨシエさんトコの家族と、兄さんトコの…。
  あ、それでもあすこは 子供らが別行動で今年は夫婦だけとか言ってたかな。」

田舎のお家は自然と里帰りを受け入れる側の“実家”も多い。
この里も例外じゃあなくて、
他の土地へ就職先を定めた親の代の兄弟姉妹が、
家族を連れての“帰省”をしてくるものだから、
交通の便も物資補充の必要も、日頃より多くもなるので、
それを思うと、豪雨や何やで孤立すると面倒なのはここも同じということかも。

  大人には四季折々のいつだって、
  気を抜けぬ戦さがあるんですよ、はい。(笑)

ではお子様はといや、
何と言っても夏休みの真っ最中。
高校生や大学生という大きいお兄さんやお姉さんともなりゃあ、
バイトして資金ためて旅行に出掛けたり、
バイト先そのものがリゾート地だったりして
自力で遠くへ出掛けもしようが。
それがかなわぬ年頃では、
お盆と言えば、近所で駆け回るか親御の帰省に付き合うか。
そもそもお盆の名目は、里にあるお墓へと参ることだが、
子供にはそういう理屈もイマイチ判らず、
親戚の家で従兄弟たちと再会し、
鄙びたところならではの、河原や野辺をわくわくと駆け回ったり、
花火に蚊帳に、みずみずしいもぎたて野菜などなどを堪能し、
遠出という格好の“リゾート”を満喫するわけで。

 「考えてみりゃ、押し寄せて来られる側はあんまり利点はないわよね。」
 「そうそう。あとサ、従姉妹の中にも妙に気どった子とかいて。
  あ、ここってコンビニないんだとか、
  信じらんない○○知らないの?とか、小ばかにした物言いするんだよね。」
 「今時、ネットじゃスマホじゃあるんだもん、
  情報じゃさして変わらないのにね。」
 「そりゃまあ、コンビニや自販機はそんなにないから?
  限定商品とかPBとか言われても判んないけどサ。
  晩になったら早く寝るしかないよなトコだけどサ。
  それがイヤなら、いつまでも親の尻にくっついて来んなよっての。」
 「そうそう、バイトでもして自力で好きなトコ行けよって。」

  ……子供にも、
  世代によっちゃあ確執があるにはあるらしいです。(う〜ん)


とはいえ、今年は全土共通の話題も豊富、
特に、夏休みに入ってすぐも同然のお祭り騒ぎ、
ホントはいけないけど、
大人も観てるんだもん、しかもわあわあと うるさいんだもん、
こればっかは特別だぞと、
大みそかみたいに、しかも連日、夜更かししてても叱られない、
地球の反対側でのスポーツの祭典へ、
すぐ傍には居なくとも、きっと同じように興奮しておーえんしただろう、
オリンピックっていう共通の話題があるもんだからね。
半年ぶりに会う従兄弟や叔父さんとも、あっと言う間に話が沸くし。
特に子供同士では、

 『俺なんか、○○選手の決勝、生で観たもんな。』
 『俺も俺も。それとサッカーもvv』
 『あ、俺もサッカーは観たぞっ!』

夜更かし自慢まで飛び出す始末。
宿題片付けた自慢は……出ないか、多分。(笑)
こちらの坊っちゃんも、恐らくはそちらの自慢は出なかろう、
里一番の腕白坊主が、
大町での買い出しの帰りの艀で
偶然乗り合わせた顔なじみのお兄ちゃんへ、
わあvvと嬉しそうに駆け寄ると。
まずはのご挨拶代わりにオリンピックのお話を振っており、

 「そいでな?
  何とかってゆう おっちゃん兄ちゃんが
  最後まで頑張って銅メダルだったっ。」

 「そうだったな。」

競技とメダルの色は覚えているが、
いかんせん選手の名前までは出て来ないという、
どこかもどかしいご報告。
これが坊やのお父上だのお兄さんだのが相手だと、
容赦なく“○○選手だろうが”と指摘され、
揚げ足取りの1つもされているところなのだが。
こちらの剣豪のお兄ちゃんは、

 「そんな遅くまで起きてたのか?」
 「んと、予選までは観れたっ。」

結果は朝のニウスで見たぞと、
それさえ“すごいだろー”と言わんばかりの態度なのへと、

 「そうか。ルフィは陸上も水泳も好きだもんな。」
 「おおっ、大好きだぞっ。」

凄い凄いというのと同じよなトーンで応じてくれるので、
わぁいと嬉しそうにはしゃいで、
ゾロお兄ちゃんの腕へまとわりつくのがまた可愛い。

 “社長もエースも、
  こういう風に接すれば、もう少し慕ってもらえるのにねぇ。”

一丁前な割に、どこかで言葉足らずな物言いなのへ、
大人げなくも突っ込んでしまう彼らなのは、
日頃の周囲の面々とそういう即妙な会話を交わしているから。
それに、ルフィ坊やと来たら、
ぷんと膨れるお顔や、
ムキになって声を張るやんちゃさも可愛いしで、
身内だもの遠慮したって始まらぬと、
そこはついつい揚げ足を取ってしまって。
その結果、シャンクスなんか大嫌いだ…なんて悲しいことを言われている身。
その場では“へっへ〜ん♪”なんて飄々としているが、
間が悪いと前髪の陰に縦線が降りるほどショックな日もあるくせにねと。
こちらのご家族の一番間近で、可愛いやり取りを見ているマキノさんが、
くすくすと笑いつつ、そんな感慨をこそりと胸中で覚えておいで。
そんなオーディエンスがいるのも気に留めぬまま、
手摺りにぶら下がったり、船端に足を掛けてみたりしつつ、
小さな坊やはエンジンの音に負けじと声を張ってお話しを続ける。

 「ゾロんトコも一杯兄ちゃんとか戻って来んのか?」
 「まぁな。」

何と言っても
そちらの関係筋では結構名前の通っておいでの
武道の道場を守って来たお家柄なだけに、
親戚一同にも腕に覚えのある顔触れが少なくはないのだろう。

 「何にもないとこだってのによ。
  しかも大きい顔触れまで戻って来て、
 “稽古つけてやる”とかうるせぇのなんの。」

子供らしくなく淡白なところの多い坊やなのが、
そんな愚痴っぽいことをついぼやくのが珍しく。
ははぁ、武道のお家はお家でそういう方面の面倒もあるんですのね。

 「ルフィんチも賑やかになんだろ?」
 「おお!」

こちらさんは不思議と、
こういう折にも“親戚”というのをあんまりお見受けしないお家で。
何でもシャンクスさんが裸一貫で立ち上げたのが今の廻船輸送の会社で、
エースやルフィのお母さんとは 駆け落ち同然に一緒になったので、
そちらの親戚とも縁はないも同然だとか。
とはいえ、
身内も同然の社員の若い衆らの殆どが、
正月同様に、半分以上は帰省せずの居残りとなるので。
そんな彼らが実家代わりに顔を出すのへ、
大人数での食卓を囲む“宴もどき”が催される。

 「おりんぴっくの話もするぞっ。」
 「だろうなぁ。」

そちらのざっかけない顔触れとは、
ゾロもまた顔馴染みなので、どんな雰囲気かは重々承知。
家族持ちもいるので、
子守をさせられることもあるくらい。
そりゃあ賑やかな無礼講になるんだろうなと、
苦笑しかかっておれば、

 「何ならゾロも来るか?」

花火もするぞ、スイカもアイスもいっぱい買って冷やしてんぞ?
なあなあ来ないかと、
お誘い以上おねだり半分という声になってる坊やでもあり。

 “…十分賑やかになんだろうにな。”

まだまだ顔触れ増やして賑やかにしたいんかなぁと、
そっちへ斜めに着地しているらしいの、
何とはなく察したマキノさんが、うふふvvとやっぱり苦笑しておれば。
小さな艀はあっと言う間に彼らの里へと到着し、
頼まれたお買い物を詰めた大きなドラムバッグを、
よいせと肩へ引っ張り上げた、いが栗頭のお兄ちゃん、

 「ウチに来た兄ちゃんやおっちゃんたちの稽古つけたら、
  そっちへ……お邪魔します。」

同じ場にマキノさんもいたので、行ってやるもなかろと思っての言い直し。
何だか妙な言い回しになってたの、
あの堅物くんには可愛かったらなくってと、
お茶飲み友達のシャッキーさんへだけ話したマキノさんで。
ああこうやって、何でもあの指物師の老師の耳へも届いてるんだなぁと、
ゾロ本人が気づくのは、一体何年あとの話やら。
川畔に飛び交うトンボの種類が、気がつけば秋のそれへと入れ替わる頃合い。
水の香りも濃い中、
そういえば少し早くなった夕焼けの色が
早々と滲み始める桟橋から駆け出した小さな坊や。
振り返って“じゃあな、明日な”と大きく手を振る影が
西日に縁取られて眩しいのを、
眸を細めて見送った、今はまだ小さな 剣豪のお兄ちゃんだった。





  〜Fine〜  12.08.15.


  *帰省されてる皆様、お元気ですか?
   こんな折にいきなり豪雨が襲った近畿地方とか、
   相変わらずに極端から極端な気候続きの日本ですが、
   ご先祖様が迷子になりませぬように。

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